映画感想:風立ちぬ

見てきました。土曜日に見て来たんだけど、土曜日は酔いつぶれ、日曜日は選挙で落ち込んだりしていたので、今日の更新となりました。



見ていてじわじわとした感動が続き、映画の後半はもうずーっとウルウル来っぱなしで、涙をこらえるのに苦労しました。先日レ・ミゼラブルで大泣きしてしまったので、今回も泣いたらただの映画見てよく泣くおじさんになってしまい恥ずかしいので、必死で我慢しました。そんな映画です。



そりゃもう、子供が飽きて通路を歩き回ったりしますよ。子供が通路歩いてるのを気にしないぐらい親が見入っちゃうような映画だと思います。はっきり言って子供は見るな!で全然構わないぐらい、大人の人向けのアニメでした。


ちらほらと、ネタバレ感想ブログが上がりつつあるのですが、全然情報を持ってない人は、まず見に行った方が良いと思います。素直に見て、自分の心の中にじわじわこみあげてくるものを感じながら、これからの生き方を考えればいいでしょう。
以下、あんまり映画本編の事前情報として知らないほうがいいものは入れないように気をつけて這いますが、感想文の中に映画のあらすじとかが多少織り込まれているのはご了承ください。





僕は、この映画は、大人、その中でも、こんな大人にお勧めなのかなって思いました。


ジブリアニメのメカが好きな人
主人公は飛行機の設計士です。彼が設計した飛行機が沢山空を飛びます。飛行機がバンバン飛ぶと言ったら紅の豚なんですけど、対比として面白いなって思ったのは、紅の豚の主人公は飛行機乗りで、風立ちぬの主人公は設計士なんですね。だから、彼の目線で飛行機に乗って空を飛ぶシーンというのはほとんど出てきません。冒頭に少しだけ出てきますが、それはまた彼が設計士を目指すきっかけともなるワクワクするシーンでね。


そんなわけで、飛行機にのって空を飛ぶのが爽快、という部分ではなくて、飛行機の制作過程と飛行機の美しさを味わう、という形になっています。設計図の作り込み、より軽い飛行機を作り上げる為の様々なアイデア、出来上がった飛行機の細部の構成とか、そんなところまでキチンと描ききっているのは、宮崎駿の軍事オタクなところが出ていると言えるのではないでしょうか。



②仕事人間
主人公は、東京帝国大学を主席で卒業し、三菱に入社する超エリートです。そんな彼は、軍部の依頼により様々な軍用機を設計します。当時の日本の飛行機技術はまだまだ最先端からはほど遠い状態。そんな中で、少しでも追いつこうとドイツに視察に行き、最先端の技術を肌で感じる。寸暇を惜しんで設計に没頭し、より良い飛行機を作り上げる為に、仲間達と夜遅くまで議論を交わします。失敗してテスト飛行で試作機が墜落し、他社に受注を取られてもしまいます。そんな挫折を乗り越えて、最後には画期的な飛行機を作り上げる訳です。


これって、何かに似てますよね?そうです。プロジェクトXです。この映画は、堀越二郎という卓越した飛行機設計士がすぐれた飛行機を開発するまでのプロジェクトXとして見る事が出来ます。ラストシーンでヘッドライトテールライトは流れませんが、男たちの努力と苦労、挫折とその先にあるものを描いているという点で、自分自身の仕事を振り返って明日から頑張ろう、と思わせるには十分な内容です。



③人を愛した人、そしてその人と一度でも愛を誓い合った事のある人
この映画の主人公は、最愛の人と結ばれます。しかしその相手は、結核を抱えています。

堀辰雄といえば、サナトリウム文学の唯一無二の第一人者であり、風立ちぬは彼の代表作であります。サナトリウム文学といえば、当時結構不治の病に近い物があった結核を患ってしまった人間の、行きたいけど生きられないという苦しみと、人と人との愛情とを表現していた小説たちのことですね。あとは魔の山とか。私は堀辰雄は美しい村が好きですけどもうどうでもいいですね。

そんなわけで、映画では実在の人物である堀越二郎の人生に、その堀辰雄の小説の登場人物の人生をオーバーラップさせることで、この映画における「堀越二郎という人物の人生」を作り上げているんですね。

つまりですよ、プロジェクトX級の仕事人間である堀越二郎が、結核を抱えた彼女と出会って恋に落ちて結婚する訳です。病気療養には離れて暮らさなきゃならないんだけど会いたくて彼のところに来てしまう、彼もまたずっと看病をしたいんだけど、仕事はしなければならない。そんな葛藤の中、二人はどうやって生きるか、という事を彼らなりに考え、行動に移して行く訳です。

そんな二人の生き様が、平坦なシーンの中のちょっとした表情、ちょっとした台詞の端々に現れて来て、その情景がジワジワくるわけです。


生きて行くって、そういうことだよね、と。



まぁ他には、宮崎駿が老いてなお盛んでありながら、黄泉の国に片足突っ込んでるな〜と感じられる映像の演出だとか、上司の奥さんが超いい人とか、まぁいろいろあるんですけど、その辺は蛇足なんでどっか別の機会で。



とにかく、いい映画でした。